鈴志那優良の短編集
次の休日には祐介となんとかカラオケに行くことにこじつけた。私は少し罪悪感を抱きながらも当日の服装について考えていた。今日のこの仕事が終われば明日はデートの日だ。カラオケにしたのは最近歌を歌うのにハマっているためだった。オマケにSNSアプリでカラオケのパンケーキが最近流行っているらしい。
「岡本さん、ここの資料なんですけど」
「あー、ここね。こうしたら」
今日もこれなら上々だろう。私は後輩に的確に指示をしていく。それが終わると今度は自分のプレゼン資料を作成していく。今日は気分がいい。気分が乗ってきた。着々と資料を作成していく。
早く明日にならないかななどと浮かれていると先輩から声をかけられた。
「絵里ちゃん、今日は気分が良さそうね」
表情などに出ていたのだろう、周りに伝わっていたらしい。
「はい、少しいいことがあって」
私たちは同じ会社に勤めているが公表はしていない。たんに周りの反応が面倒くさいからだ。
「それはいいことね」
そこで会話は終わり仕事も順調に終え私は帰路へとついた。ついスキップして口笛でも吹いてしまいそうになりながら私は家へと帰って行った。

─翌日。
私は服を着替え、メイクを済ませると時間を見て驚いた。時間があと10分しかない。約束までの場所は20分程で着くがこれじゃあ間に合わない。メッセージに『ごめん、少し遅れそう』と入れるとサッと準備を終わらせ急いで家を出た。
待ち合わせ場所に着くと祐介がスマホを片手に退屈そうな顔をして待っていた。
「ごめんね。おまたせ」
祐介はハッと表情を変え、いつもの爽やかな表情へと戻る。
「そんなに待ってないよ。カラオケ行っちゃおうか」
少し怖かったが、いつもの表情へと変わったので安堵もした。それより今日は楽しもう。
「パンケーキおいしいんだって」
「食べようね」
私たちはカラオケ店へと向かった。

カラオケでは最近流行りの曲を歌っていた。チラリと顔を覗くとニコッと笑ってくれた。この笑顔がたまらなく好きなのだ。
コンコンとドアがノックされる。
「お待たせいたしました。パンケーキです」
ふわふわとしたパンケーキが机へ置かれる。置かれる時お皿の上で揺れたパンケーキは本当にカラオケ店で出していいレベルのパンケーキかと疑うほどのものであった。
「このパンケーキ、あの有名なお店とのコラボらしいよ」
それは知らなかった。だからこんなにふわふわとしているのか。値段もそれなりに高いわけだ。
「そうなんだね。いただきます」
1口食べると口の中で溶けるような感覚と程よい甘みが広がりとても美味しかった。
「おいしい!」
パンケーキに夢中になっていると祐介が唐突に言った。
「こんな時にごめんね。もう我慢できないんだ。僕たちもう別れないか」
持っていたフォークとナイフを落としそうになる。それを我慢しながら答える。
「どうして?」
満たされない。それで少しわがままになっていたのだろうか。満たされない気持ちが見透かされていたとでも言うのだろうか。
「絵里のこと重たく感じるんだ」
そうか。重たいのか。たしかに私は期待していた。祐介ならこの満たされない感情を、どうにか満たしてくれると思っていた。それゆえに重たく感じさせてしまったのだろう。仕方ない、受け入れるしかない。
「ごめんね。わかった」
「支払いは済ませるよ。さようなら」
そう言うと祐介は足早に去っていった。私はパンケーキを食べる気にもなれず、そのまま家へ帰ることにした。昨日はあんなにも晴れ晴れとしていたのになんだか今日は空の色が曇って見えた。
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