鈴志那優良の短編集
あれからしばらく会社に行くことも困難になった。顔を合わせたくないのもあるし、気分が全く乗らない。職場での様子がおかしいことや体調にも不調が現れてきたことにより、仕事を一旦休職することになった。
なにもやる気になれず家事もおざなりになっていった。誰かと連絡する気にもなれなかったが1人だけ相談してみようと思った友人がいた。親友と呼べる存在なのだ。
『莉子ちゃん、元気にしてる?私はちょっと体調崩しちゃって』
するとすぐに既読がつき返信が返ってきた。
『元気にしてるよ。大丈夫?』
家事もできていないし手伝って欲しいので家に呼ぶことにしよう。
『ちょっとしんどい。できれば家事手伝って欲しいんだけど今から来れる?』
『大丈夫だよ。30分で着く』
いつもいつもフットワークが軽いなと思いながらそれなりに片付いてない部屋を綺麗にしていく。だがやはりやる気がなかなか起きない。やらなきゃとは思いつつも行動には起こせない。そうこう悩んでいるうちにインターフォンがなった。
「はい」
「莉子だよ」
「今出るね。部屋片付いてないから覚悟して」
玄関へと向かった。その行動すらも気力が出ない。やはり呼ぶべきではなかったか。
「お待たせ」
「わぁ。散らかってる」
「だから言ったじゃん」
そのまま部屋へ通す。まずは片付けや家事は後にして話を聞いてもらおう。私は手伝って欲しいとは言ったが、話を聞いてもらいたくて呼んだのだ。
「莉子ちゃん、祐介くんと別れたぁ」
「え、まじ?」
驚いた様子だった。それまでに蓋をしていた感情が一気に溢れだしてくる感覚があった。
「そうなの。それから全然気力がわかなくて」
「それでこんなになったの?」
「うん」
今まで言わなかったが今日はあの話もするつもりだ。なぜか満たされない感覚があるということを。
「それでね、満たされないの。私恵まれてるはずなのに、何も不自由してないのに、満たされないの」
莉子は何も言わず私の背中をさすってくれた。顔は見えない。莉子が何を考えているか分からない。唐突にこう言った。
「2人で動画配信始めてみない?」
「えっ?」
泣いていて何がなんだか分からなくなっている私にさらに混乱を押し付けられた。
「満たされないんでしょ?歌歌うの好き?私音楽やってみたいんだ」
まだ思考が追いつかない。でも莉子はさらに続ける。
「何かに熱中しれてば、満たされるかもよ?」
満たされる?本当に満たされるだろうか。
「本当に満たされる?」
「好きなのなら」
歌を歌うのは好きだ。最近はハマってもいた。本当に満たされると言うなら私は─
「やってみたい」
私はやってみたい。純粋にそう思った。
「よしきた!」
本当に満たされるかどうかはやってみないとわからない。でも莉子を信じてみたかった。私は結局何かにすがるしかないのだろう。
そのまま莉子は泣き止むまで背中をさすってくれた。そのあと少し落ち着いて家事などはまた今度にすることにしそのまま帰ることになった。
「じゃあどう配信していくかはあさってにでも」
「今日はありがとう。またね」
体調が悪いことは莉子に病院を勧められ、一度病院に行くことにした。明日は病院にいく。気は進まないがちゃんと治療してもらってはやく仕事に復帰しなくてはならない。

─翌日。
病院へ行くと「抑うつ状態ですね」と診断されてしまった。一度かかると完全に完治することは難しいらしい。会社に「抑うつ状態」であることを伝えるともらった薬を眺める。
抵抗がある。こんなので本当に良くなるのだろうか。そんなことを考えながらとりあえず寝る前の薬を飲み休むことにした。
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