鈴志那優良の短編集
─2日後。
今日は休日なので眞斗と一緒に本屋に行くことになった。落ち着いていて雰囲気が好きらしいが、読むのは漫画らしい。そういうちょっと意外なところも好きである。
「今日はどういう漫画買うのかな?」
「そうだね、この漫画とかどうだろう」
そこにはガッツポーズのような感じの男の子が描かれてあった。
「面白いの?」
「ああ、とても面白い」
そう言って選んでいる時の顔はとても嬉しそうに微笑んでいる。私に対してもそうであって欲しい。
私を見ていて欲しいというのはまだ伝えていない。機会を失ったのだ。未だに機会を伺っている。
「私も読んでみよっかな」
「ぜひ、読んでみてほしい」
やはり、私の顔は見ない。だがここで言ってしまうのはとても不自然だ。そうこう考えているうちに買うものが決まったようだ。
「ちょっとこの本買ってくるよ」
そう言って一冊の本を落とした。そこには2人の男性が手を繋いでキスをしているイラストが描かれてあった。眞斗は慌ててその本をさっと拾った。
「見苦しいところを見せてしまった。すまない」
そのまま眞斗は走り去るように小走りでレジへと向かっていった。

私は驚きはしたがそんな趣味を持っていたことは1ミリも気にしていない。だから私は追いかけた。
「眞斗、私なんとも思ってないよ」
「そう、なのか?普通は引くと思ったんだけど……」
「私も読んでみたいな」
「本当か?本当なら貸すけど」
眞斗がニコニコして買う漫画のひとつなのだから、私も読んでみたいのだ。

ああ、どれだけ魅了されているのだろう。私は眞斗にズブズブと落とされていっている感覚に襲われる。それは嫌では無い。むしろ吉兆。良い虫の知らせだと感じていた。
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