キミには一番星を




 
 友人関係が良くなる一方で、家庭環境は悪化するばかりだった。特に俺は何にもしてない。

でも、母さんの仕事が忙しくなったみたいで、帰ってくる頃にはイライラMAX状態だった。

八つ当たりされることもしばしば、ヒステリックな叫び声を、怒鳴り声を向けられるのなんてほぼ毎日。

次第に父さんまで八つ当たりされるようになった。初めの方は口論していたけど、父さんは諦めたようだった。

そのうち、父さんが家を出て行った。俺宛の置き手紙だけを残して。

【すまんな。こんな俺を許してくれ。お前を見捨てたわけじゃないのはわかって欲しい。俺は、お前の母さんのことが嫌いになったんだ。耐えられなくなった。こんな情けない親の元に生まれて、さぞ苦しいだろう。ごめんな、星一」

…不思議と悲しくはなかった。まぁ、そう言うこともあるだろうなと、冷静に受け止めることが出来た。

母さんは特に気にした様子はなかった。……はずだった。

「なんでアンタはこんなに出来ない子なの?私がどんな思いで仕事を頑張ってると思ってるの?あの人が居なくなってから、私は一人で家庭を守らなければいけなくなったのよ?」

あの人、は父さんのことだ。んで、怒る時には必ず父さんの話が出てくる。

流石にこれは面倒だった。心を抉られるような感じ、流石にキツかった。

それが周りにも伝わってしまったらしく、俺は徐々に避けられるようになった。

腫れ物を扱うように、何か異様なものを見てしまったのかのように。

そして、ちょうど母さんの仕事の関係で隣の県に引っ越すことになった。

何も、未練なんてなかったし、どこかホッとしている自分がいた。





 それから俺は、どんなに悲しいことがあっても人の前では笑っているように心がけた。

小四の後期から新しく通うことになった学校は、今まで通っていた学校よりも綺麗だった。

それに、いつも笑うようにしていたからか、すぐに男女関係なく沢山の友達が出来た。…結構楽しかった。

告白も何回かあったけど、いちいち丁寧に断っていたらめんどくなってきて、

「俺、君のこと好きじゃない。気持ちは嬉しいけど、ごめん」

とだけ、言葉を返した。いつしか俺は王子様、とまで呼ばれるようになった。

彼女は作らない、みんなの王子様のような存在に、俺はなったのだ。

どうでも良い肩書きに、俺は心の中ではうんざりしていた。顔や言葉には出さなかったけど。

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