キミには一番星を
俺も我慢できなかった。ついつい、俺は奏を抱きしめた。大切な宝物を、これ以上どこかに無くしたくない。
出来ることなら、ずっと俺のそばにいてほしい。
「俺も奏が好きだ!大好き、愛してる!」
「く、苦しいよ!てか、まだ私、こういうことに慣れていないんだって!」
「じゃあ、今慣れてよ。あ、それとさ、無駄に優雨と七生に触れられるの禁止だから」
カレカノとして当然だと思う。俺に関してはもうあまり女子とは話してないから、心配なのは奏だ。
って思ってたら、ノックされることなく保健室のドアが開いた音がした。
「あれ、なんでそこのカーテンが閉まっているのかしら」
シャシャー、と音を立ててカーテンが開かれる。
「あ、先生!どうも!」
「あ、え、どうも?……あの、あなたは奏さんですよね?」
どこか不機嫌そうな保健室の先生は、それでもいつもの可愛い子を演じていた。
この先生は、実は可愛い声や仕草を作っている。俺は前に保健室の前を通った時、先生が舌打ちするのを目撃した。
しかも、「あんたらがサボるせいで私の仕事が増えるんですけど。まじでいい加減にしろよ」と言っていた。
誰しも秘密にしたいこととかあるけど、結構この事実が意外すぎて、思い出すだけで笑ってしまう。
でも、あくまで俺は寝ているフリをしなくちゃいけない。必死に口角が上がらないように耐えていた。
「はい。えと、私、お腹が痛くなって保健室で休もうと思ったら偶然、彼が寝ていて……あまりの顔の綺麗さに目を奪われていました!で、ちょうど先生が今来たというわけです…」
「そうなの……あなたが例の、スタライの織姫なのね?」
「あ、はい!織姫をさせていただいてます」
奏がそう言った途端、多分先生が何かを漁っている音が聞こえた。ガサゴソと何かを探しているようだった。
「あった!……あの、サインを貰えませんか?私、奏様の大ファンで……」
「え、本当ですか?いつも応援ありがとうございます!この色紙にサインを書けばいいんですよね?私、ペンを持ってないので貸していただけますか?」
「もちろんです!…これどうぞ、使ってください!」
もうダメだ。笑いが堪えきれなかった俺は、盛大に吹き出して笑った。
奏と先生はびっくりした様子で俺を見ていた。いやぁ、それにしても先生の推しが奏だったなんて。
奏は男女に好かれるからなぁ。嫉妬しないわけではないけど、でも、先生の推しが……はははっ!