恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで

あの黒髪の女の子は
瀬木さんと呼ばれる男性を追いかけて
走って行ってしまった


どうしよう‥‥
胸がとても苦しい……


リハビリでは
叫びたいくらい痛い訓練も
我慢できるのに、今は心臓が何処かに
持っていかれそうだ‥‥


車椅子に取り付けられている
ブザーを鳴らすとすぐに
看護師さんが来てくれた。



『立花さん！？
　立花さんどうしました！？』


「苦し……の…」



『病室まで戻りますよ？
　………先生すいません！！
　立花さんの容態が…
　ええ、すぐ戻ります！！』



うずくまり胸を押さえる私の
車椅子を病室まで押してもらうと
先生がすでに来ていて
すぐに酸素マスクをつけられた



さっきまでなんともなかったのに…
どうして………？


遠くで聴こえる先生の声が小さくなり
私は瞳を閉じた




薬品の香りに目を覚ませば
そこは見慣れた天井で、
ぼんやりとそこを眺めた



『日和……目が覚めたか？』


「(お兄ちゃん……)」


『先生呼ぶからちょっと待ってろ』


ナースコールに手を伸ばした
お兄ちゃんの服を寝たまま引っ張り、
首を横に振った。



『分かったよ‥
　……苦しくなったら呼ぶからな』


「うん」


また忙しいお兄ちゃんに
迷惑かけちゃってると思うと
涙が出そうになる


「……私今日何か思い出しかけたんだ」



『ほんとか？
　何か分かったか？』


「心がね苦しくなって、
　自分が言った言葉を、
　昔何処かで話してる感じがした。
　あとね‥‥……
　瀬木さんって呼ばれる男の人と
　話してると心が温かくなるの。」



『…………そっか
　よかったな……
　そうやって少しずつでいいからな』


「うん………」


お兄ちゃんはそう言うと
口元に手を当てたまま
部屋を出ていってしまった



あの黒髪の女の子も、
私と友達だと言っていたけど
まだ思い出せない


今日は一緒に本が読めなかったから
今度またゆっくり読みたいな‥‥