恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
今から6年前


 中学を卒業した私は、
 真新しい高校の制服に身を包み
 校内で一番大好きな場所となった
 眺めのいい図書館で、
 毎日の昼休みと放課後を過ごすのが 
 楽しみになっている



 そしてもう一つ‥‥

 その大好きな場所で
 生まれて初めて誰かに
 恋をするという経験をした


 出会った瞬間は
 今でも忘れられないほど
 鮮明に覚えている


 小さい頃から
 本を読むことが大好きで、
 それ以外にはあまり興味もなく
 生きてきた私の世界が、ガラリと
 大きく変わった日だったから‥


 誰かに恋をするというものを
 知らずに育ってしまった私は、
 その人に出会ってから暫くは
 自分が彼に恋をしたとは
 気づけなかった


 ただ、あの人に出会ってから、
 本を読んでても、授業中でも、
 家でもどこでも
 何をしてても眠る前ですら
 ふとした時に思い出す彼が
 頭から出ていかず、
 私の心にいつの間にか
 住みついていることに気が付いた


 いつもと変わらない
 大好きな学校の図書館も、
 彼がそこにいるというだけで
 別世界な空間になり、
 言葉を交わすことなんてなくても、
 その場所が居心地がよく
 帰りたくないなぁなんて思ってた。


 偶然の出会いからひと月も経てば
 私の中で彼はもっと
 大きな存在になってしまったと思う



 恋って本当に不思議な感情だ‥‥


 もしもこの気づいた感情を
 恋というものじゃないと言うのなら、
 この気持ちの正体を誰か教えて欲しい



 春風が、
 豪快に開けられた窓から入り、
 図書室全体に暖かな優しい
 日差しが差し込む放課後



「(えっと‥‥確か……ここに……)」


 あ‥‥‥嘘っ!!
 あった!!!


 前から気になって
 読もうと思っていた本を見つけて
 心がワクワクしてしまう‥


 なかなか返却されなくて、
 迷っていたあの時に
 借りれば良かったと
 ずっと戻ってくるのを
 待っていた一冊なので、
 嬉しくて思わず手を伸ばした


 毎日来てるのにこうして
 なかった本が突然戻ってくるのも
 図書館のいいところだと思う


 どうせ今日もないだろうなって思って
 半ば諦めてたから、
 そういう時に起きる奇跡は
 平凡な日なら
 尚更余計に嬉しくなる。



 ‥よいしょっ
 ‥‥えっ!!?


 やっと気になっていた本が
 読めることで嬉しくなったのに、
 手に取った本の表紙を見て
 あることに気付いた


 藍色のその本を手に取ると、
 そこに書かれていたのは
 まさかの『後編』と書かれた二文字


 まさかの二冊シリーズなの!?
 なんだ‥‥残念‥‥‥。



 前編から読まないと
 さすがに物語がわからない‥


 手放しにくいけど仕方ない‥‥か。
 前編を読んでる人が、次にこれが
 なかったら悲しいもんね‥‥


 あと3年もここにいれば
 いつかは読めるはずだから
 気長に待とう‥


 まだ読んでない本が
 山ほどある図書館に
 胸がワクワクしてくる




『その本、借りるの?』


 ドクン
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