恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで

『今まではね、原稿書いて欲しいなら
 あれ買ってこい、ご飯買ってこいだの
 それはそれは大変だったのよ!?
 本業じゃないのにこき使われて。』


ハハ‥‥何となくさっきの感じから
やらされてる想像がつくから、
苦笑いが出てしまう



『紹介が遅れたわね、
 私は出版社で校正編集をしている
 高城 あかね。
 瀬木先生はメインで担当してるの。』


編集部かぁ……素敵
何かその響きだけでもカッコイイ


『俺はその出版社の営業部の和木。
 それよりもう今回の作品読んだ?』



「いえ‥‥まだここに来て
 一週間なので
 生活に慣れるのに必死で全く
 読めてないんです」



読んでいいと言われても、
あの部屋に先輩がいると思うと
なかなか勇気がなくて入れないのだ。


若いのに本を出せるなんて
凄いことだし、
やっぱりあの部屋の本の世界に
興味が沸いてしまっているのは事実だ。



『じゃあ良かったらこれ見てみる?』


高城さんがそっと
手渡してくれた一枚の紙を、
両手で受け取ると心臓がドクンと跳ねた


これって……


『今、瀬木先生が書いてる
 書籍の一部よ。』


先輩の‥‥?


手が少しだけ震えてしまう。


初めて見る瀬木さんの世界観に
触れる事が出来る気持ちと、
触れていいのか戸惑う気持ちが交差する


でも、やっぱり触れたくて
深呼吸してから静かに読み始めた


「‥‥‥‥‥‥」



『どうかしら?』




すごい‥なんて言葉で片付けたら
失礼かもしれないけど、
たった一部分だけを読んだだけなのに、
最初から読みたくなるような
物語の情景に
私は惹き付けられていく




「……………とても素敵です。
 早く続きが読みたいですし、
 瀬木さんの本を
 もっと知りたいです。」


原稿に目を落としたまま、
書き終わったら絶対買ってみたいなと
思える作品で嬉しくなるし、
その紙一枚が先輩が書いたと思うだけで愛しくてたまらない‥



『だってさ、隼人』


えっ!?
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