恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
『採用するかどうかは別として、
 そんなに難しくはないし、
 高城たちに評価してもらう
 いいチャンスだと思う』


それは‥‥‥確かに
文学部メインの専攻だし
現場の和木さんや高城さんに
見てもらえるのは
すごく勉強になるけど‥‥



「‥瀬木さんの本にですよね?」


『うん。』



「私で‥いいんですか……?」



今度出版予定の
そんな大仕事に携わっていいの?
私ただのアルバイトだよ?



『‥‥‥立花が、いいんだよ』


「えっ?」



『仲さんありがとう、
 夕食楽しみにしてる』


「えっ?‥せ、瀬木さん!」


またいつものパターンだ


前よりは
話してくれるようになったけど、
やっぱり考えが掴めないまま
いつもフェードアウトされてしまう


一ページってすごいことだし
プレッシャーが凄過ぎるけど
学べるいいチャンスだと
言ってくれたからやってみたい‥‥


『ふふ‥‥隼人くんが
 ここで座って飲むなんて珍しいのよ?
 いいものが見れたわ。』


悩む私を他所に
なんだか笑顔の仲さんに
カフェオレを飲んでから
お礼を言った


その日の夕食は魚メインの洋食で、
焼きたてのパンやスープも絶品で
私には絶対作れない味に
彩と2人ではしゃいだ


驚いたのは瀬木さんが夜は
お酒飲んだことだ


家では一度も飲んでるのを
見たことがなかったから
てっきり飲めないのかと思ってたけど、
お兄ちゃんと同じペースで飲んでる。


仕事中なのに
飲み過ぎないか心配になる‥‥‥



『尾田、日和はちゃんと働いてるか?』


少しだけニヤリと笑う兄に、
向かい側から睨んでやる
もう絶対酔ってるし‥‥‥。


ファイヤーピットに照らされた
瀬木さんの答えが気になる私は
そっと視線を隣へとうつした


『‥‥助かってます。
 立花は本当に‥‥
 よくやってくれてます。』



そんなことを
言ってもらえると思わなくて、
さっきまで食欲がすごくあったのに
恥ずかしさで食べ物が
喉を通らなくなってしまう


『‥‥‥良かったな。
 おう、感謝しろよ?』


『櫂さんには感謝してます。
 立花に会わせてくれたので。』


ドクン


何でそんなことを言うの?
お酒のせい?
瀬木さん酔ってるからだよね?



『そうだな‥‥ほら、飲め。』


「お、お兄ちゃん飲みすぎ!」


『櫂さん、私も飲みたい!』


「彩!!」



軽井沢に来てからの素敵な夜、
瀬木さんの表情がどこか
優しく感じた。
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