恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
恋う
瀬木さんの書いたお話の
時代は明治初期


身分違いの男性に
届かぬ思いを抱くも、
誰にも言えずに苦しむ
身寄りのない貧しい女性


男性の御屋敷に
下働きとして何年も仕える女性だが、
最初の出会いの時以来、
近くに行くことも目を合わす事も
言葉を交わすことも
決して許されなかった


自分はここを追い出されたら
一人では生きていけない


どんなに辛くとも
旦那様のおそばで生きられる


それだけが彼女の生きる意味でもあった


しかしそんな女性の思いも知らず、
男性も身分違いの恋と知りながら
屋敷で働くその女性に思いを寄せていた


こんなにも近くにいるのに

手を伸ばせば届く距離なのに


身分という、どうにもならないものが
二人を苦しめお互い思いを交えることも
出来ないままであった。



それでもたった一度だけでもいい。
あなたに会いたいと願い、
男性が手紙を出すことを決め、
必ず渡すと受け取ったお屋敷の
別の仕用人の女性がいた。


しかしその女性は彼女の美しさを妬み、
一人だけ幸せになるなんて許さないと
彼女の飲む湯呑みに
毒薬を混ぜて入れてしまったのだ


気付いた時には遅く
喉が焼けるように痛み、声が二度
と出なくなってしまった女性は
役立たずと、その場を追い出され
旦那様のおそばにいられないなら
生きていても苦しいと身投げをした


そこへ偶然通りかかった
墨屋の主人に助けられ
声が出ないことが分かっても、


『ここで働けばええ。
 わたしは妻も亡くして、
 娘も嫁入りして
 のんびり炭家をやっている。
 ここはあんたの家だ。』


そう言うだけでそれ以上
何も聞いてくることもなく
仕事を与えてくれるご主人に
一生の恩返しがしたく
生きる希望が持てていた。



約束の日の夜


愛しい人を手紙が記した場所で
ずっと待つ屋敷の男性は
想いを寄せる人の不幸すら知らず
ずっと待ち続けるも
来る日も来る日も
現れることはなかった


何年か過ぎたある日、女が偶然町で
男性を見つけ必死で追いかけたが、
声を出して呼ぶことすら叶わない。


そもそも
下働きをしていた女が現れたところで
私のことなど忘れているであろう。
旦那様のご迷惑になるだけだと
追いかけるのを辞めた。


旦那様‥‥
あなたに会えて幸せでした

どうか‥‥
どうかお元気で


そしてどうかお幸せに‥‥


女は出ぬ声を殺して泣き
溢れそうな想いを懐へしまったのだ



届かぬ想いが交差する



現代はスマホやメールなんて
便利なものが沢山あるけれど、


この時代に生きる人がする恋の深さや
行き場のない想いがこの本には
とても詰まっていた



止めたくても止まらない涙と、
苦しい想いで口に手を当て
嗚咽を押さえる
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