恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
『5、6年くらい前、
営業成り立ての頃かな‥‥
自費出版でいいから本を出したいと
掛け合ってきたのが
高校三年生のアイツだった。
勿論名前も知らない一般人だし
応募しろって最初は断ったんだけど、
かなりしつこくてね』


愉しそうに笑いながら目を細めて
ゆっくりと空を見上げた


『断っても断ってもしつこく来たから
 どうしてそんなにその本が
 出したいのかって訪ねたら、
 大切な人と本でしか繋がってないから
 何処かでその人が読んで
 自分のことを思い出して
 くれればいいなんて
 生意気なこと言ったんだよ』


えっ?


本でしか繋がってない………?
それってもしかして‥‥‥‥



和木さんは
愉しそうに笑いながら目を細めて
ゆっくりと空を見上げた



『それでどんなものか
 試しに読んだら終わり。
 必ずこれは売れるって思ったから
 俺が負けたんだ。』


「………そうだったんですね。」


6年前から
先輩のことを思い出したくなくて
本を読まない日々がかなり続いた


進路を決める時に
お兄ちゃんと話して
それからまた少しずつ
図書館で本を読み始めたから
本屋に行ってたら瀬木さんの本が
読めていたかもしれない。


和木さんは
瀬木さんの本に賭けたんだね。


そんな瀬木さんの素敵な作品に
私が挑戦していいのかな。
評価が下がらないか怖くなってきた。


瀬木さんは私でいいって
言ってくれたけど、
多くの人が楽しみにしてるからこそ
たまらなく不安になる



『アイツは今までで一番の物を
 書くと思うよ。何故だか分かる?』



俯いて首を何度も横に振った


『君が隼人の側にいるから』


えっ?


私が瀬木さんの側にいると
どうしていいものが書けるのだろう


「私は何にもしてないし、
 寧ろ邪魔をしてるだけなんです。
 瀬木さん優しいから
 甘えてしまってて‥‥」


『そこだよ』


和木さんは立ち上がると
大きく伸びをして、
私にニコリと微笑んだ。


『隼人は甘えてくれる人も
 甘えられる人も居なかったから
 日和ちゃんがそうすることで
 バランスがとれてる。
 前は暴言しか吐かなかったから、
 柔らかい顔してるの見て驚いた。
 それってすごいことじゃん。
 そのままでいいんだよ。』


あっ………


瀬木さんにも言われた


そのままでいいって………


考えすぎて悩んでる場合じゃないな


「和木さん‥‥ありがとうございます」


和木さんと話せた事で
不安で迷ってた気持ちが吹き飛んだ


また知らない先輩を知る事が出来た。
それだけでも数分前まで悩んでいた
自分とは何処か違う気がする

< 83 / 147 >

この作品をシェア

pagetop