【悲報】冷徹上司の毒牙にかかり推しごとがはかどらない件について
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私、 綿貫美香28歳はマーケティング会社で秘書業務についている。
仕えているのは社長である 高坏悠悟32歳。
親会社で異例のスピードで出世し、二年前に子会社であるこの会社の社長に抜擢されて就任した方で、その有能、敏腕ぶりは経済雑誌にも何度か取り上げられるほどのものだ。
おまけに高身長で均整の取れた体つき。
切れ長の目が印象的な整った顔立ちからは、冷静に見えながらもどこか野性的な魅力がにじみでていた。
向かうところ敵なしといったこのハイスぺ社長は、もちろん部下に求める仕事のレベルも高い。
「だめだな、この企画書では目標に達するまでのビジョンが見えてこない」
長い指でとんとんと書類を突き、社長は静かに言った。
社長と同い年のチームリーダーは、社長の言葉を聞きながら緊張した表情を浮かべている。
子会社化の際に社長に傾倒して一緒に移ってきた社員が多くいて彼もそのひとりだと聞いたことがあるけれども、社長が求める基準に合わせるのは容易なことではないらしい。
それにしても、今日もいいお声だなぁ……。