【悲報】冷徹上司の毒牙にかかり推しごとがはかどらない件について
無表情でキーボードを打ち続けつつ、私は部下にアドバイスする社長のイケボに酔いしれていた。

若いながらもその声は腹の底に響くように低くて色気があって、私が推しているイケオジキャラであるベルト様の魅力的な声にそっくりなのだ。
声だけ聞けばまるで彼と一緒にいるようで、幸せで仕事が存分にはかどってしまう。

おかげで社長の私への評価は悪くはない。

「社長、午後からの会議資料です」
「ああ、早いな」

私が書類を差し出すと、社長は数枚をめくってさっと目を通した。

「いつもながら見やすくていい出来栄えだな」
「補足資料は分けた方がいいと思いましたので別紙にしております」
「そうだな、その方が比較しやすい」

 硬く引き結ばれた唇の両端が微かに上がる。
その容貌から「冷たげ」とか「怖い」と言われることもある社長だけれども、この微笑を向けられるとたいていの女性社員は社長に見惚れてしまう。

私も内心ドキドキしたけれども、いつものように沈着冷静な有能秘書を演じて軽くお辞儀する。
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