【悲報】冷徹上司の毒牙にかかり推しごとがはかどらない件について
その顔で熱のこもった眼差しを向けながらこんな甘い言葉を言って、今まで何人の女性を惑わせてきたのだろう。罪深い人だ。

そう思っても、私は拒めなかった。

社長に導かれるまま、ホテルの最上階へ上る。

エレベーターに乗っている時も部屋に向かって歩いている時もドキドキして心臓が壊れそうだった。
私ひとりだけ馬鹿みたいだ。

「わぁ、すごく綺麗な夜景ですね」

そう思うとやりきれない思いに圧し潰されてしまいそうで、私はスイートルームに入るなりわざと明るく振舞った。

部屋の中をあちこち見て回りながら感激の言葉を並べる。

それにいちいち反応してくれていた社長だったけれども、やがて私に近づくと手を握ってきた。

「興奮は治まってきたか? そろそろ見学は終わりにしようか」

その手から逃れるように私はまだ見に行っていない部屋に向かおうとする。

「最後にあの部屋を見てきてもいいですか? スイートルームのパウダールームってどんな――」

不意に強く抱き寄せられたかと思うと唇に熱いそれが重なった。
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