美しい海はどこまでも
それに、佐藤さんのことを美記って呼ぶのは、流石に抵抗が……
「早くしてよ夏葉。俺たち、親友だっただろ?」
え、親友だった?もう、佐藤さんは謎発言が多すぎる。
「ほら、なーつーはー?」
「み、美記……」
甘えてくるなんてズルすぎる。それに、私が名前を呼んだだけでこんなにも笑顔になるなんて、心臓がもたないって!
このズル野郎!
「美記のバカ!」
「…はっ?な、夏葉こそ天然鈍感女だろっ」
「はぁ?私は天然でも鈍感でもない!それこそ、美記はオンナタラシじゃん!」
「誰がタラシだって?俺は一途な男ですけど?」
「へぇ、じゃあさ、その初恋の子の名前教えてよ。一途なんでしょ?」
言い争った後、私が少しからかったら美記は急に静かになった。
さ、流石に調子に乗りすぎたかも。怒ってるかな?
そう思って美記の顔を覗き込んだら、意外にも切なげな顔をしていた。
「え、どうしたの?ごめん。嫌なこと思い出しちゃった?」
「いや、大丈夫。たださ、初恋の子、俺のこと忘れてるっぽいんだよね」
え、もしかしてその子を見つけれた感じ?……な、なんか少し複雑だなぁ。
「無理もないけど、どんなにアピールしても気付いてくんないの。流石に傷ついてるかな……」
そっかぁ。そりゃあ、転校しても忘れられなかった子だもんね。
って、何で私が悲しんでんの?私はただの取り巻きなのに、ただのクラスメイトの分際なのに、そんな資格はない。
私は美記と結構関わったことはある。だから、できることなら応援したい。
この気持ちも、いつかは忘れることが出来るだろう。いや、忘れるんだ。
まだ、完全にこの気持ちに名前はついていない。今のうちに踏ん切りをつけよう。
「ねぇ、その子って誰なの?私、力になりたい」
「え、え?」
「私なんかが出来ることなんてないと思うけど、手伝うよ?」
私、もう、誰のことも好きになんてならない。特に美記のことなら尚更だ。
応援するにはまず、相手を知らないといけない。その初恋の子の名前、教えてくれないかな?
「…無理。名前を教えることはできない。俺自身の手で、初恋の子を振り向かせたいんだ。だから、気持ちだけ受け取っておくよ。夏葉、ありがとう」
「ううん。…私こそ、でしゃばってごめんね」
な、何で私、今、泣きそうなんだろう。