美しい海はどこまでも
うーん。保健室が無理ならあとは屋上くらいしか思いつかない。でも、鍵って開いているんだったっけ?
開いてなかったら、美記と話したばかりの階段最上段に座っていればいいか。
そう思ってあの場所まで、出来るだけ音を立てずに向かう。先生にもバレないように、周りを警戒して歩いていく。
……誰にも会うことなく、とうとう屋上まで辿り着いた。なんか、呆気なかったなぁ。
でも、まだ屋上までは上がれていない。……意を決して、私はドアノブを回した。
「あれ」
思わず声をこぼしてしまった。だって、ドアノブにも鍵がかかっていなかったんだもん。
あーあー、少し、旅をした気分が台無しかも……いや、これはこれで良いのか。
思い切りドアを開くと、そこには綺麗な青空が広がっていた。きっと、屋上から眺める海も綺麗なんだろうなぁ。
そう思って、駆け足でフェンスへと向かっていたその時、誰かに後ろから声をかけられた。
「あんた、誰?何しにここに来たわけ?」
肩を震わせて恐る恐る振り向くと、とても不機嫌そうな男子が立っていた。
「聞こえなかった?…あんた誰。んで、何しに来たの」
「あ、えぇと、私は霜島夏葉と言います。ここに来たのは、屋上から海を見たくって……」
そんな私の言葉はどうでも良かったみたいだ。彼はズンズンとフェンスまで歩き、そこにもたれた。
よくよく見ると、彼はサラッサラの黒髪をしている。寝癖は一つも見当たらない。
切れ長でやや灰色がかった瞳に、身長は百八十程あると思われる。
それゆえに、不機嫌な顔をされると威圧感が半端ない。
「わぁ、え、凄い!」
そんな彼のことなんか忘れてしまうくらい、屋上からの景色は美しかった。
晴れた空に、太陽の光を反射して輝く海は圧巻の光景で、私は言葉が出ない。
佐藤さんと見た海よりは神々しさには欠けていたけど、今日の海もナイスコンディションだった。
「……お前、本当に海が好きなんだな。俺のこと知って、ここに来たわけじゃなさそうで安心した」
「…私は、教室にいるのが辛かったから、ここに来ただけだよ。海を見れば、心が落ち着くの」
私がそう言った後、少ししてから彼は自分のことを名乗った。
「……俺の名前は晴沢海(はれさわうみ)、高校一年だ。俺もお前と一緒の理由でここによくいる。まぁ、霜島はここに来たのは初めてっぽいけどな。ここ、俺も気に入ってるんだよ」
ぶっきらぼうに言った同い年の彼、晴沢さんは私の目の前では初めて微笑んだ。
そんな不思議な彼と、私が出会った瞬間だった。