美しい海はどこまでも
いきなりの話だったけど、私は何も言葉を口にしない。彼が話す次の言葉を待つためだ。
だけど、まさ彼がいじめられていたなんて思ってもみなかった。
「俺の見た目も、身長高い割に暗い印象じゃん?それに、口とか目つきだって悪い。だから余計に避けられたんだよな」
「…でも、私が見る限り、晴沢さんは良い人に見える。最初は感じ悪って思ったけど、話してみれば優しさもユーモアも感じる。なかなか面白くて良い人だと思うよ?」
まだ全部、晴沢さんについて知ったわけじゃないけど、今のところは全然良い人だ。
最初よりは口調も穏やかになっていると思う。
私なりの考察のうえに導き出した答えは、普段は不良っぽくしているけど素こそが紳士だと言うこと。
黒王子だと思ったら白王子パターンみたいだ。
「そう言ってくれて、俺、嬉しいよ。夏葉さんのおかげで元気出た!」
そう言ってニコッと微笑む彼は、おとぎ話に出てくる王子様そのもの。不覚にも、私はドキッとしてしまった。
いけないいけない。私が好きなのは美記なんだから……って、は?
え、待ってどう言うこと?え、そう言うこと?
だからあの時、初恋の子教えてって私が美記に言ったら無理と言われた時、私は悲しかったのかもしれない。
突き放されたような言い方に傷ついたのかもしれない。
……初恋の子に対して羨ましいとか思ったのも、そう言うこと?
「あれ、夏葉さんどうしたの?」
……気づいたら晴沢さんに夏葉さんって呼ばれていた。しかも、彼が顔を覗き込んできたから距離が近かった。
私は慌てて距離をとった。
「な、何でもない!それより、急に顔を覗き込まないでよ。びっくりするじゃん…」
「あぁ、ごめん。でも、夏葉さんって可愛い顔してるよね?言われない?」
「…うーん。私が愚痴った男子と、私の友達には言われた気がする……そんなはずないのに」
美記にはもっと自信を持てと言われたっけ。
「無自覚ってわけか…それとも自分に言い聞かせているのかな…?」
ついつい美記のことばかり思い出してしまっていた私の耳には、晴沢さんの呟いた声は聞き取れなかった。