美しい海はどこまでも



 
 それから、私は何となく美記と顔を合わせづらくなった。変に意識してしまう。

…それが、私が美記を避けているように見えたらしく、本人から呼び出された。

「ねえ、最近俺のこと避けてない?何となく会話はできているけどさぁ、目を見てくれない」

……ごもっともです。私は何も言葉を返せません。だからと言って、正直に私の想いを伝えるわけにはいかない。

黙ってばかりの私に痺れを切らしたのか、美記は私のほっぺたを両手で挟んで視線を合わせた。

ぶっちゃけ、私の心臓は騒がしかった。頬が徐々に火照るのが分かる。

て、てか、通りすがる人たちの視線が痛い…!廊下のど真ん中でこんなことしないでよ!

私の視線に気づいたのか、美記は私の手を取って歩き始めた。

……辿り着いた先は、あの日の階段だった。あの日と同じ場所に私は腰を下ろす。

「何で何にも話してくれないの?俺、流石に傷つくんですけど」

「…ごめん」

でも、どうしようもないじゃん!この恋心のせいなんだって……言えないけどさぁ。

ため息をついた美記は、なぜか私を抱きしめた。…あぁ、懐かしいなぁ。そして、やっぱ少し恥ずかしい。

「ねえ、何でそんなに苦しそうな顔をして謝るの?俺、何かした?しばらく一緒に帰れてなかったし、俺……」

「美記のせいじゃないよ。私の気持ちの問題だから」

「気持ちの問題?」

そう、美記が聞き返した時だった。…屋上へのドアが開いてしまった。これは私が開けたのではない。

もちろん美記でもない。ならば、残すはあの人しかいない……

「わ、え、お前誰だよ…え、夏葉さんもいるじゃん」

「……は?あなたこそ誰ですか?てか、屋上に行けないはずでは?そもそも何で夏葉のこと知ってるんですか?」

「質問が多い奴だな。俺が名乗る義務はない。屋上に行けるのは俺が鍵を開けたから。夏葉さんともここで会った」

今は晴沢さんは黒王子だ。やや不良っぽい雰囲気をかもしだしている。

私は、いつも私だけに見せてくれる白王子の彼の方が好きだなぁ。……私って、いったい誰が好きなんだろう。

「は?え、夏葉、こいつの言う通りなの?」

私がこくんと頷くと、美記は頭を抱えた。彼は「くっそ、最悪だ……」と呟いている。

いやいやいやいやいやいやいやいや、それは間違いなく私のセリフなんですけど?

相手が美記とは言え、屋上に行けることがバレてしまった。もしかしたら私はもう、行けなくなるかもしれない。

それか、先生にまでバラされて晴沢さんの居場所がなくなってしまうかもしれない。


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