美しい海はどこまでも
そして私の出番が途切れた時、美記に声をかけられた。
「なんか暗いよ〜?夏葉、大丈夫?」
「…え?あ、大丈夫だよ!もっと演技が上手になるにはどうしたら良いんだろうって考えていただけだから」
「本当に?」
「本当に」
「なら良いけど?無理はしないでね?」
「うん。気にかけてくれてありがとう」
……今、上手く笑えたかな?役者として、今も演技出来ていないとやっていけない。
でも、昔の私を知る人なんてそんなにいないと思う。子役時代の私は「期待の卵」なんて言われていたっけ?
そんなんいつの話だって感じだし、自分に自信がなくて結局は辞めたけどね。
それに、あの時の名前は霜島夏葉じゃなくて、霜島ナツで活動していた。知っていても気付きはしないだろうな。
「あ、君ってリナって子?結構かっこかわいいね♪そんな君にお願いがあるんだ」
「アンのことならお断りしますけど」
「え〜?なんで分かっちゃうのかなぁ。てか、なんでお断りするの?君、めっちゃ俺に対して敵意しかなさそうだし」
ここは美記演じる王子様キャラとバチバチするシーンだ。
「当たり前でしょ?もうずっと前からアンはある人に一途なんです。その人もアンのことが好きなんです。私はこのまま二人がくっついて欲しいと思っています。あなたに乱入されたくないですし、そもそもあなたのこと信用できません。では」
「……あーあ、俺には勝ち目なんて最初から無かったんだ。せっかく王子様、で居続けてたのになぁ。振り向いて欲しい人にだけ相手にされない俺って、一体なんなんだろ」
……役者に戻ったって、私は何にも価値がないんだ。この王子キャラの気持ち、今までで一番理解できるかもしれない。
ずっと憧れていても、結局なんともならなかった。私には、スポットライトなんて当たらない。
そのまま何とか上手な方の演技ができている。今はラストシーン。
アンがケンに告白すると思いきや、ケンの方からアンに告白するんだ。
「俺、アンじゃなきゃダメだ。君以外なんて考えられない。…ねぇ、俺たちの初めての出会い、覚えてる?」
「も、もちろんだよっ!裏庭で、ここで私が落としたお守りを拾ってくれて、それで私は恋をして…」
「俺もその時からアンのこと気になり始めたんだ。やっとで、君の想いを知ることができた。もう、二度と俺から離れないようにしてやるから、覚悟しといてね?……アン、好きだ。俺と付き合って欲しい」
「はいっ。私も、ケンのこと大好きだよ!」
そう言ってアンがケンに抱きついたところで、この物語は幕を閉じる。