美しい海はどこまでも








 まずは結果から言おう。映画は大成功した。観客もたくさんいたし、泣いてる子もちらほらといた。

でも、私からしたら最悪な出来事が起きている。

多少テレビに出るのは良い。舞台挨拶をするのも一人ではないし問題ない。ただ、ただ!

「ちょっと待ってくださいよ。なんで次の舞台で私がヒロインすることになっているんですかぁ?!」

……私は今、事務所の若そうな男性スタッフに向かって思い切り文句を言っている。

「しょ、しょうがないじゃないですか。上の判断なんですって!僕は知りませんよ…」

「この作品知ってる?泣くシーンが多いんだよ?私、演技の中で一番苦手なの、泣くことなんだってば!」

「だ、だからしょうがないです!僕に言わないでください!役者なら文句言ったらだめでしょ」

はぁ?こちとら、役者に命をかけてるからこそ言ってるんですけど!感情的なシーンの中でも、怒るのとかは全然出来る。

でも、本当に、あの日から泣く演技なんてできなくなったんだ。こっちの事情も知らないで……

何が上だよ!だったらその上が問題あるんじゃないの?昔の私のこと知っている人がほとんどなはずなのに。

「ま、まぁまぁ?俺、夏葉さんのヒロイン役見てみたいし、泣くのなんて最終的には目薬でも良いんじゃないかなぁ?」

海、それにしても目薬って…原始的な方法だね……私的にはまだ玉ねぎの方が泣く演技としてはやりやすいと思う。

ってそういう問題じゃない!とにかく、ヒロインなんて私には出来ないよ……

子役時代はどんな役でも、難なくこなしてたのになぁ。もう、あの頃には簡単には戻れない。

「夏葉、俺もヒーロー役で登場するからさ、お互いにラブラブしとけば多分大丈夫だよ♪泣く演技、俺、夏葉にさせてみせるから。だから、安心して俺に任せても良いんだよ?それで夏葉のプライドがなんともないんならね」

うぅ、厳しい。でも、美記の言う通りだ。いつまでも昔のことで頭を悩ませてはいけない。

いつまでも甘えていたら、それこそもう二度と役者として生きていけなくなる。

苦手なところがあっても、それを無くしていくのがプロのプライド。それが、最悪なことに私にはある。

「スタッフさん、ごめんなさい。私、本当に演技ではなかなか泣けないんです。迷惑をかけると思いますが、こんな私でも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」

無事にスタッフさんと仲直りして(出来たかは分からない)、とりあえずはこの場は収まった(完全に私のせい)。

そこからも、全く休む暇を与えられないまま、稽古期間が始まった。

夏休みがもうすぐで始まることは心の救いだった。



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