美しい海はどこまでも
「どこまで行っても、私は、お姉ちゃんのところへ行けないのっ。私が死ねばよかったのに、守ってくれたから生きなくちゃいけない。だけど、私にはそれが苦痛でしかないのっ!」
ヒロインであるミヤは、小学高学年の時、事故でお姉さんを亡くしてしまった。
それも、自分を犠牲にしてまでミヤを守った。そんなお姉ちゃんのこと、ミヤは全然理解できないでいる。
「学校でもさ、よく自分の命は自分で守りましょうって言ってるじゃん。それなのに私のこと優先しないよ普通は」
「ミヤ、それは違うと思うよ?きっと、ミヤのことが愛おしくて大切で、命にかけても守りたかったんだよ。例え今が苦しくても、無理に生きろとは誰も言えない。ただ、僕は生きて欲しいって思ってるよ」
「うぅ、なんでそんなこと言ってくれるの?わ、私、どうすれば良いのか分かんないっ」
「カット!……霜島さん、もう少し泣けますか?舞台はカメラじゃないですからアングルを調整できないので、もっと感情を込めて……泣けますか?」
多分、これは私だけだと思うけど、泣こうとするとあくびが出そうになってしまう。
言い訳になるかもしれないけれど、……あくびが出るよりはマシじゃない?
あーあ、みんな本気で演技している。私だけが置いてけぼりなんだ。美記も役のことを完全に理解して演技できている。
役と同じ気持ちを抱いていても、普段から泣かないように生活をしている私には上手く泣くことが出来ない。
「夏葉には、苦しい過去を持っていて自分が幸せになってはいけないと思っている、このミヤの気持ちが分かるでしょ?だって、夏葉も似たような経験しているもんね。でも、幸せになってはいけないと思っているミヤの気持ちを全部演技に乗せられてないよ。昔からの癖だね。……俺が見本を見せてあげる。声は作らないけど」
昔からの癖……覚えてたんだ。役者を辞めてから、私自身はこの癖さえも忘れていた。
だからみんなの様な演技ができないんがろうな。
「っ、なんで……そんなこと言って、くれるの…?わ、私…どうすれば良いのか分かんない……っ」
美記の子役時代どんな感じだったのかな。今でこんなに演技が上手なら、小役時代も輝いていたんだろうな。
それなのに、私ばかりが「期待の卵」だなんて言われちゃって、美記はどんな気持ちだったのだろうか。