美しい海はどこまでも
まぁ、グダグダしながらも役作り生活は実を結び、稽古でも上手く演技できる様になった。
また、小説を書くのは一回後回しにし、読者に専念した。原作と台本を行き来し、登場人物の性格や癖などを考察する。
この繰り返しのおかげで、随分演技がしやすくなった。泣くことも、完全に感情移入すれば出来るようにまでなった。
「おっけー!皆さんお疲れ様です。あとは実際の舞台にも足を運んでみたり、通し練習を重ねたりするだけです」
やっとで肩の荷が降りたと言う感じだ。何がなんでもこの舞台は成功させなくちゃいけない。
迷惑をかけまくった私は、特に本番で実力を魅せなければいけない。
「ミヤの演技、結構良い感じになったね。僕も頑張らなくちゃなー」
「はは、ヒロはこのままで充分なほど演技が上手だよ。ライバルが増えても困る」
「道琉にも愛美サンにも迷惑かけたなぁ。僕とミヤの舞台のためにたくさん協力してもらったね」
実は愛美達にミヤとヒロで接することを許してもらう他に、ここ一週間ほどは二人きりにさせてもらっている。
打ち合わせを重ね、演技の出来栄えを常に確認しあうためだ。
もっと言うと、台本のセリフを二人にそれっぽく読んでもらったりもした。
「あ、達海。確か、日曜ドラマの撮影で忙しいんだよね?お疲れ様」
「僕らに協力してくれてありがとね」
ちなみに達海は海のことだ。海も私たちと同じ様に、常に役で生活している。
「あぁ、ミヤとヒロじゃん。おっつ〜!現場、結構ハードなんだよね。アクション系がキツいよ〜。俺はただでさえ運動習慣ないのに、いつも筋肉痛との戦いなんだ〜」
海が演じる達海はチャラ男キャラだ。でも運動神経も頭もいいキャラなんだよなぁ。
総長の姫になったある普通の女子高生を必死に守るヤクザの様子がえがかれているドラマにでるんだったかな。
しかもその総長様の弟役だったっけ?
これまた新鮮な役に、正直私はすごく楽しみにしている。
「お互いにあともう少しなんだから、一緒に頑張ろうよ。僕たちは三人で一つ、だから」
「「うん」」
こうやって励まし合って成長できる仲間がいること、私は本当に誇りに思っている。
ずっとずっと続いて欲しい関係に、名前なんて必要なかった。