美しい海はどこまでも
舞台挨拶を終え、いよいよ今から舞台が開幕する。私はもう、今はミヤだ。気持ちから世界観に浸り尽くす。
始まりは私たちが出会うシーン。曲がり角でミヤとヒロがぶつかるのだ。
「やばい。次は移動教室なのにこれじゃ間に合わない!」
「「わっ」」
手に持った教科書やノートなどを、ミヤは転んでしまう時に盛大にばら撒く。
そこに、ぶつかった相手であるヒロが拾いながら心配してくれるのだ。
「あ、ごめんね?君に怪我はない?」
「あ、はい。私、ついつい廊下を走っちゃってて、その、すみませんでした!あと、拾ってくれてありがとうございました!」
うん。初めの演技も良かったんじゃないかなと思う。こだわりは教科書などのものの落とし方だ。
自分でも結構気に入っている。少しでも大袈裟に演技した方が良い時の方が多い。
「あ、この前の子だね。お久しぶり」
「はい。あなたも図書委員になったんですね。この前は本当にすみませんでした」
「いいよいいよ。僕も怪我してないし謝らなくて大丈夫」
ここでチャイムが鳴り、委員会活動が始まる。委員会内の自己紹介で、それぞれがお互いの名前を知る。
また、ミヤとヒロは書架整理と言う同じ役割をすることになる。
委員会を通し、ぐんぐん距離を縮める二人。
「ミヤって本当に手際がいいね。普段から家の手伝いとかしてるの?僕はあんまりしてないかな……って大丈夫?どうしたの?具合悪い?それとも、家の話題が出るの嫌?」
彼女にとって触れられたくはないキーワードが飛び出たことに、ミヤは取り乱してしまう。
それも好きになった相手からの不意打ちの発言だ。
「ごめんね。僕が言うのはおかしいかもしれないけど、深呼吸して落ち着いて?」
そう言ってヒロはミヤの背中に手を回す。……今のミヤの気持ちは?
きっと大きな戸惑いや少しの恥ずかしさがメインなんだろう。私は言われた通りに深呼吸をする。