美しい海はどこまでも
美記も感情を込めているからだと思うし、私が集中出来ていないからだとも思う。
それでも、ミヤと私の気持ちは同じだから演技に支障はないはず。
「んじゃ、一緒に帰ろうか」
そう言ってさらりと私の手をとるヒロ。身長差が二十センチ程あるのが悔しい。
見栄えは身長差があった方がキュンキュンしやすいのだとは思うけど、意識してしまうと相手がカッコよく見えてどうしようもない。
あーあ、まだ最後の難所がたっぷりと残ってるんだけどなぁ。
「実は、みんなにお知らせがあるんだ〜」
「え、なになに?」「お前やけに嬉しそうだからさぞかし良いことがあったんだろうな」
「へへ、僕はこの度、ミヤと付き合うことになりました!イェイ」
「「「えぇ?!」」」
あーあー大きな声で言っちゃって……私のところまで聞こえてますよ〜?
しかもみんな目を真ん丸に見開いて、口をあんぐりと開けちゃっている。
「ごめんだけどさ、ミヤサンのどこが良いの?確かに顔は整ってる方だけど、俺からしてみれば雰囲気も言葉遣いも冷たいって言うか……近寄り難い感じがするんだよ」
「それな〜?絶対にあたしの方が色々な要素含めて可愛いと思うんだけどなぁ」
実際はかすかに聞こえる程度の音量での私への非難も、舞台ではコソコソ話なんてなかなか通用はしない。
本来ならコソコソ話を断ち切る様な通る声で、ヒロが私のことを庇ってくれる。
今回は舞台だ。コソコソ話ではないこのやり取りからどうやって私のことを庇うのか。
「ミヤはそれだけの子じゃないっ!俺が惚れた女の子だ!!俺はミヤ以外に大切な人なんていないっ。作る気もない!自分で自分のこと可愛いって思ってる様なキミとは比べ物にならないくらい、ミヤは心から綺麗な女の子なんだっ!!」
彼は、美記は今まで聞いたことのない様なはっきりとした大きな声でセリフを言った。
ヒロになりきって、ヒロなりの大きな声を出している。
正直、私はとても鳥肌がたった。客席のみんなも、ステージの上の美記に、ヒロに目を奪われている。
あぁ、この空間が堪らないんだ。みんなが一つになっていると言う実感が得られる最高の場。
「ミヤは照れ屋だからいつもは済ました顔をしてるだけで、意外と笑うし優しいし、可愛いよ!僕と並ぶのが惜しいくらい、世界一可愛いんだよっ!自分の勝手な解釈で決めつけないでよっ!!」
私ってこんなに彼に愛されていたんだな。
「ってミヤ?!大丈夫?ごめんね?」
「っ、うぅ……私、可愛くなんて、ないから。もう、何庇ってくれてんのよヒロのバカっ」
生きている意味、生きていく意味なんて実際は存在しないんだ。