美しい海はどこまでも
淡い夕焼け色
ふわぁ……眠いな。最近は特に何もないけど、寝つきが悪くてなかなか熟睡出来ない。
原因は二つほど心当たりはある。でも、こればっかりは見ないフリに限る。
本日は夏休みが明けて初日の学校生活。
「…クマが酷いね〜。隠さないの?」
「うん。もはや隠すのさえめんどくさいんだよね。良いの良いの!愛美さえ隣にいてくれたらそれで良いの!」
「さらっと嬉しいこと言ってくれちゃって!…あれ、そういえばさ、佐藤サンとはどうなってるの?今日、ほとんど話しているところ見たことないよ。それこそ授業中の隣同士で交流する時くらいだけだよね?」
「まぁね。ちょっと色々ありまして気まずいのですよ。海も何か勘付いたらしいけど、私とも美記とも仲良くしてくれてるんだ。それが唯一の救いかな?ま、愛美が一番だけどね」
もう本当に海には感謝しかない。相変わらず屋上生活の海の元へは私は行かない。美記と被りかねないから。
海とは部活の時に話すくらいだけど、面白い話からそうでも良い話までしてくれるんだ。
私の中での第一のオアシスが愛美で、第二のオアシスが海になっている。
……美記のことでモヤモヤした私の心を落ち着かせてくれる、二つのオアシス。
それから一週間ほど経った時、部活で海と会話をしていた。
「俺、ちょうど昨日に撮影終わったんだ。んで、今日からドラマが公開する」
「へぇ、お疲れ様!よし、帰ったら早速録画しようかな。見れたらリアルタイムで見るね!」
「…ご勝手に。チャラ男の俺なんて見られたくはない。まぁ、アクションは頑張ったから楽しめるとは思う」
そういえば、しばらく白王子の海と関わってないな。今も不良絶好調の彼はどんな気持ちなんだろう。
「……今日、一緒に帰るか?」
「…え、えぇ?!」
「…なんでそんなに驚くわけ?今日は撮影もないし暇なんだよ。俺に付き合え」
「分かった。一緒に帰ろう…」
なんだなんだ…不良キャラが少し俺様キャラになっている。役作りには関係ないはずなんだけど。
てか、一緒に帰るってことは白王子姿の海と話せるということだよね。やった。
……って簡単に喜ぶんじゃなかった。
「俺、見てられないよ。毎日俺のところまできてさ、夏葉に嫌われたかもしれない、って泣いて落ち込んでるんだ。佐藤さんのあんなに無気力そうで悲しそうな顔、俺見たことないよ」
いやいやそう言われても……今更どんな顔して会えば良いの?
突き放したのは私なのにノコノコと美記の前に現れて「仲直りしよう」なんて言えるわけがない!
「大丈夫。佐藤さんは夏葉さんが居ないと生きていけないんだ。例えどんなに喧嘩したって気まずくなったって、あの人は気にしないよ。俺からのお願い。佐藤さんと話してきてほしい。…無理なら俺と付き合う?」
ふふ、なんて笑う海は意地悪で優しい。
あぁ、もしも美記よりも先に海と出会っていたならば、きっと私は海を好きになっていたのかもしれない。
だけど、これは運命なんだ。赤い糸が先に私と美記を手繰り寄せた。
「ありがとう。私、明日は美記とちゃんと話そうと思う。謝ろうと思う!」
この先に明るい未来が待っていると信じて、私は明日へと踏み出す。