美しい海はどこまでも
「では、まずは自己紹介をさせていただきますわね。私の名前は高森彩那と言います。こちらの男性は清水彬です。ハナサキ文庫の社長と、その相棒ってところね」
ハナサキ文庫……って、有名作家さんの本を数多く出版している国内最大級のハナサキ文庫様?!
しかもその社長さんと相棒さん?!
「神様、私に出来ることならばなんでもお申し付けくださいませっ」
私はそう言ってお二人様に土下座を披露した。
ここで、ずっと無口だった清水様が言葉を発した。
「あ、あの、頭を上げてください…!我々は、あなたの本を映画化と同時に、その、出版させていただけないかと伺わせていただいただけなので……」
「えーと、質問したいんですけど、私の小説をどうやってお知りになられたんですか?公開もしていないし完成したばかりなのに、知る術は無いんじゃ……」
そんな私の疑問は呆気なく吹き飛ばされてしまった。
それも、スタッフさん全員を信じられなくなるような吹き飛ばし方で。
「あぁ、それね、あなたのスタッフさんの誰かが教えてくれたのよ。たまたまあなたのパソコンを見つけてしまって、見るつもりはなかったけど画面が立ち上がったままだったからつい視界に入ってしまった。ってね」
「……え?」
「あなたが舞台稽古していて不在だった頃の話だったかしらね。そのスタッフにデータを貰ってね、私たちも読ませていただいたわ。もう、なんと言ったら良いか!高校生でこのレベルは信じられなかったわ」
「ぼ、僕も、思わず二度読み返していました。多くの世代に愛されそうな作品でした。そ、その時点では途中までだったんですけど、スタッフさんに多分小説書き終えたと思いますって、連絡が入って、それで今に至ります…」
誰だ勝手に私の小説の情報を盗んだ奴。何処のどいつだよ?……結果は良かったっちゃ良かったけど。
「それで、映画化されるって話は聞いているのよね?だって、あなたがご自身で書かれたこの作品のヒロインをするんだものね!是非是非本の方も出版させていただけませんか?」
「……え?あ、本の方は全然大丈夫なんですけど、映画化されるのがこの作品だったなんて知りませんでした」
「あら、そうなの?だけど、私たち嬉しいわ♪映画化も楽しみにしてますわね!本のことはまた後でそこのあなたのスタッフさんたちに連絡をするわね。では失礼します」
「僕も、映画化楽しみにしてますっ」
そうしてお二人様は事務所を後にした。……慌しかったな。
本の出版が決まると同時に、私がヒロインを演じる映画が私自身の作品だったなんて。