美しい海はどこまでも
それに、学校では「私」ではなくて「役者」「芸能人」として認識されてされている。
そんな日々に、徐々に私は虚しくなってしまうばかり。
お父さんに事情を説明したら役者を辞めさせてくれたし、お母さんも転校の手続きまでしてくれた。
……私はみんなと向き合うことから逃げた。
私のように「期待の卵」のような肩書きが欲しかった人たちも怒っていたと思う。
「身勝手だ」「侮辱された感じがする」「一生懸命頑張っている人に失礼」という言葉も多かった。
それから、私は演技すること自体も辞めた。
こんな私が今更役者に戻って、忘れてしまっていた美記のことを好きになってしまったことすら本当はダメなこと。
それなのに、付き合うなんて美記に失礼だし、そんな資格は私にはない。
「私なんかが誰かと付き合うことなんて許されない。相手が美記ならなおさらだよ。私はサイテーな女だから、ごめん。美記にはもっと可愛くて明るくて私なんかとは正反対の子の方が似合うよ」
美記だけが小さい頃からずっと「私」を見てくれた。だからこそ、期待を裏切られるのが怖い。
彼から逃げた挙句忘れて、再会しても思い出せなかった。そんな私は美記には釣り合わないんだ。
これで良いんだ。これからは友達で、役者仲間。繋がりが全て無くなるわけじゃない。
…泣くな私!今までどんなことがあっても家族は味方をしてくれたじゃん。演技という武器が私を強くしてくれたじゃん!
「バカか!!」
これ以上ないくらいに強く、強く抱きしめられた。まるで「もう絶対に離さない」とでも言うように。
「私なんか、って何だよ!それは俺の目が腐ってるって言ってることと同じだよ?例えサイテーでも良いよ。俺のことを忘れても良いよ。俺が望むのは、ずっと側に居てくれることだけなんだよ!笑ってくれることだよ!」
「…っごめん」
「それに、私と正反対の人の方が似合うって言う割には、夏葉泣いてんじゃん。本当はどう思ってるの?釣り合う釣り合わない置いといて、資格とか置いといてさ、俺のことどう思ってるの?」
どう思ってるかって、そんなの一つに決まってるじゃん!
「好きだよ!私も、美記のことが大好きだよっ!」
私の世界に色をつけてくれたのは海でもなく、美記だけだよ。
小さい頃も私と一緒にいてくれた時は、今みたいに綺麗な景色を見せてくれていた。
あの頃は恋愛としての好きとは違ったけど、ずっとずっと大切な存在なんだ。