美しい海はどこまでも
お母さんのことをここで言うのもずるい。そもそもレベルが違う。
お母さんも過去に役者を目指していたことがあったけど、家庭を守りたくて辞めたとか。
でも、勿体無いくらいお母さんは演技が上手い。
「あ、そろそろ行かなきゃな。久しぶりに話せて良かったよ。文化祭は見に行けそうだから楽しみにしているよ」
そう言ってお父さんは私に向かって手を振りながら背を向ける。
こんなお父さんだけど、私のことを気にかけてくれる優しくて少しだけ厳しくて、温かく見守ってくれる。
だから私はお父さんの事を憎めないし、結局は大好きなんだ。
「お父さん!私、次は逃げないから!この二人と一緒に頑張る!」
「ふふ、そうかい。…頑張れ夏葉」
優しく頭に乗せられた、男の人にしては華奢な手がくすぐったい。
文化祭、意地でも頑張らないとなぁ。
「夏葉のお父さん……確か舞台とか映画の脚本する人だったよね?他にも色々してるって噂の偉い人」
「うん。あんなに優しい顔しといて結構優しいスパルタなんだよ?」
「夏葉さんのお父さん、そんなに凄い人だったなんて…親子揃って優しくてビジュ良いとか最強じゃん」
「ん?何か言った?」
「いや、何でもないよ」
ふーん、変なの。てか、お父さんったら嵐のように来て去っていったんだけど、毎回毎回マイペースすぎるんだよ。
「こりゃあ、何が何でも文化祭で演技しないといけないやつだなこれ。クラス発表以外でも、有志で演技…夏葉って大変だね」
「他人事みたいに言わないで……台本作るの、ほとんどは私じゃん?…もしかしてクラス発表の台本も私がやらないといけない感じ?全然聞いていない。そもそも、後三週間でコンテスト用の写真も三枚提出しなきゃいけないんだよ?」
「え、そうなの?俺も初めて聞いた。写真かぁ……次は何にしようかな」
うわうわうわー!もう何も考えない!
夢にまで仕事で追われそうだ。それだけは絶対に嫌だ。
私にとって、寝る時間とは一日のご褒美。そんな大切な時間を生々しいものにしたくない。
……という私の願いは叶えられる事なく、夢でも私は忙しかった。