美しい海はどこまでも



 文化祭当日



「うげぇ、まじか〜!こんな点数親に見せらんないってー」

「やる気ないキミが悪いんだよ……って、普通に八十五点も取れてるじゃん?ま、俺は九十三点なんだけどね」

「嫌味だりぃ。あーあ、寝よ寝よ」

はい、今日も演技が上手なお二人さんでーす。

そんな彼らを私は端っこで眺めています。…私は美記演じる少しチャラめなヒーローが好きなヒロイン役だ。

そんなヒロインは地味子で、メガネと長い前髪を今日のために作って来た。

「ちょっと、寝たらダメだって。…センセー!この人が授業中に寝ようとしてるんですけどー!」

「バカ。寝てませーん。……ねぇ、キミなら俺が寝てないって見えてたよね?」

そうやって目を少しだけ輝かせたヒーローに話しかけられた私は、こくんと頷く。

友達ゼロ人設定のヒロインは、コミュニケーション能力に欠けている。

「ははは、ここは頷くんじゃなくて口で言ってもらいたかったな。…ほら、俺は寝てませーん!」

「いやいや、その子が怯えて頷いちゃっただけなんじゃないの?無駄にキミは顔は、良いからねー」

「無駄にとか、顔は、とかいちいちウザ〜。…この子は怯えて頷いたんじゃないよ。意思を持ってた。勝手な偏見で物事をしゃべんなよ」

私を庇うように、守るように、彼は話している。

それに、さらっと肩に手を回してヒーローの方へ近づけて。

「……珍しいね。女子にそんな態度を見せるなんてよっぽど、その子のことが好きなんだ?セーゼー頑張ってねー」

海演じる役はヒーローの友達設定だ。素直になれない彼は、ヒーローに少しキツイ口調になってしまう。

女子はこの二人のタッグに目をハートにして見入っているようだ。

「俺さ、思ってたんだけど、前髪切ったら?……ほら、前髪を上げたら綺麗な顔が見えるのに。メガネもコンタクトに変えてみれば?」

そう言って私の前髪を上げて、メガネを片手でそっと外す。

一気に眩しい世界が目に飛び込んでしまった私は、何にも邪魔されないこの視界で、好きな人の顔を直視する。

恥ずかしさと戸惑いと。どこか嬉しいと思っている自分から逃げるように、彼から目を逸らす。

「ん?何でめぇ逸らすん?俺、なんかした?」

いやいや何もしていないですよ。私の気持ちの、問題なんです。

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