美しい海はどこまでも


今日は意地で、一人で帰っていた。

さすがに昨日の今日で佐藤さんと一緒に帰るわけにはいかない。愛美も道琉といい感じだし、邪魔したくない。

愛美には事前に先に帰ることを伝えておいたし、チャイムが鳴ったのと同時に私は教室を飛び出したから、佐藤さんには捕まらないと思う。

久しぶりに綺麗な海が見れる、と楽しみにしていたのに、今日に限って少し濁っていた。

空も曇ってる。確か、午後に少し雨が降っていた気もする。

「はぁ、」

「……何、ため息ついてんの?もしかして俺のせい?」

聞き慣れた声が聞こえて来てびっくりした。え、なんでここにいるの?どう考えても私には追いつかないはずなのに……

よくよく見ると、佐藤さんは肩で息をしていた。

……男子の足の速さと、私の歩くスピードの遅さを完全になめていた。

私、走れば足は速いほうなんだけどな。

「今日は一緒に帰りたくない。また噂されると、お互いに嫌でしょ?」

「俺は、…嫌じゃない。でも、夏葉さんが嫌そうにしてたのを見て、俺、心配だった」

じゃあ何で一緒に帰ろうとするの?……とまでは、さすがに言えなかった。

だって、こんなにも切なそうな彼の表情、見たことなかった。

私は伏せがちに言葉を伝える。

「お願い、今日からしばらく、一緒には帰らないで?学校ではすこしくらいなら話しても良いからさ」

「……分かった。夏葉さんがそれを望むならそうするよ。傷つけたくはないから」

分かった、と言った彼は、本当にそのまま私を追い越して、スタスタと歩いて行った。

その背中が何だか寂しそうに見えて、私は少し申し訳なくなった。



私の言葉の通り、一週間ほど、佐藤さんは一緒に帰らないようにしてくれた。

たまにだけど、教室では少しだけ話したことはあった。……何となく気まずかったけど。

でも、それは一週間だった。一週間と二日が経った今日、なぜか佐藤さんは帰り道について来た。

「さすがに今日は良いよね?女子たちも、結構落ち着いたでしょ?」

まぁ、それはそうだった。最近、女子たちの視線も感じないし、佐藤さんの周りの女子に数も大幅に減っている。

何かあったのだろうか。

不思議だったけど、私から冷たくしておいて簡単には聞けなかった。
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