妄想女子はレベル‪✕‬‪✕‬!? 〜学校一のイケメンと秘密の同居をすることになりました♡~


 ーー学校を出てから海へ行った。
 その理由は、降谷くんに伝えたい気持ちをいますぐ海に向かって吐き出したかったから。
 本当は降谷くんに電話をかけようかなと思ってスマホを出したけど、私が聞きたいのはスピーカー越しの声じゃないからそれはやめた。

 右側から夕日を浴びたまま砂浜にカバンを置いて、海水がかかるぎりぎりのところへ行き、両手をメガホンのようにして大きく息を吸った。

「降谷くんのばかぁぁああ!! 私がモデルをしていた時は笑顔の似顔絵なんて一度も描かかなかったのにぃぃ……。しかも、似顔絵のタイトルにレベル2ってなによーーっ!! それは気になる人って前向きに捉えていいってことなの? 少し前に聞いたらレベル0だって言ってくせにぃぃぃ! 気持ちを伝えても全然振り向いてくれないし、お弁当箱を払い除けちゃうくらい冷たいし、未だにさちかさんが気になってるし、私のことなんて眼中になさそうな素振りをしていたくせに、急にそんなことを書かれても気持ちが追いつけないよぉぉおお!! 降谷くんのバカバカバカバカーー! 私、本気で降谷くんの彼女になりたいんだからぁぁああ!!」

 叫び終わってふぅと大きなため息をついてると、5秒も経たずにうしろから……。

「それがお前の不満?」

 降谷くんの声を浴びたので振り返ると、彼はリュックを背負ったまますぐうしろに立っていた。

「……ふっ、降谷くん。どうしてそこに?」
「お前と同じ。海に不満を叫びに来ただけ」
「不満って……?」
「コンクールの締め切りが迫ってんのに、お前が避けるからいい絵が描けなかったじゃん」
「だって、川で小瓶を探していたあの時に降谷くんはさちかさんから電話がかかってきて行っちゃったじゃない。だから、悔しくなって……」

 あの日のことを思い出しながら唇をぎゅっと噛みしめていると、彼はスラックスの右ポケットに手を突っ込みながら言った。

「行ってないよ」
「えっ?」
「やめたんだ。さちかのところに行くのを」
「どうして……」

 彼はポケットからなにかを取り出したあと、私の正面に立って首の後ろに手を回す。
 私はそのなにかの重みを首や鎖骨に感じながらも胸をドキドキさせる。
 一連の作業が終わると彼は一旦離れて、私はそのなにか確認するために目線を落とすと、胸元にはあの日川で消えた小瓶がネックレスとしてぶら下がっていた。

「これは……私が探していた……」
「そ。お前のネックレス。ここ()で貝殻をあげたあの日から大切にしてくれてたんだよね」
「探してくれたんだ。嬉しい……」
「あの日、お前と別れてからさちかのところに行こうと思ってたけど、お前の涙が足を引き止めてた。ここで適当に拾った貝殻を一生の宝物にするくらい俺を想ってくれてるのが伝わったから小瓶を探しに戻ったんだ」
「えっ。あの日は大雨で川は増水してたのに、私の為に……。だから夜遅くびしょ濡れのまま帰ってきて……」

 あの日、彼はさちかさんの元へ向かっていると思っていた。
 でも、それがまさかさちかさんのところへ行かず、大雨の中、川に入って小瓶を探していたなんて……。

「それを探している間、どうしてこんな気持ちになったのか考えてたら、知らないうちにお前の笑顔に励まされてたんだって気づいてね。お前んちに世話になった時は恋愛レベル0で、この海で不満を吐き出せと言われた時はレベル1で、川でその小瓶をなくしたと言われた時はレベル2。ひとつ屋根の下で生活しているうちに、気づけばお前への関心が右肩上がりになっていた」
「……っ」
「だから、それを伝えようと思ったんだ。……俺は俺のやり方でね」

 彼は温かい眼差しでそう言うと、私の右手を握った。
 初めて繋がり合う、彼の大きな手。
 いつか握ってもらいたいなぁと思っていたけど、それがいまこの瞬間だなんて……。


 降谷くんは学校一のイケメンで超がつくほどモテモテなのに、気持ちの伝え方はとても不器用。
 しかも、恋愛レベルは3じゃなくて、その手前の2。
 私は気になる人止まりに。

 う〜ん、残念。
 ……だけど、本音を言うと最高に嬉しい!!

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