無個性

普通の人生

今年も何も無く終わっていくのだろう。普通に過ごして、普通に歳を重ねて、普通に結婚して、普通に子どもを産んで育て、年老いていくのだ。私は普通に人生を終えるのだと、そう思っていた。

季節は春。今年もこの瞬間がやってきた。私は名前を探す。今年は何組になっているだろうか。今年は友人─川岸凜音と同じクラスになれるだろうか。去年は違うクラスだった。教室の移動が面倒くさいので本当に同じクラスにしてほしい。
あった。私は小沢美咲なので川岸はあればすぐ見つかることだろう。川岸もある。同じクラスのようだ。良かった。これで教室を移動することなくお弁当も一緒にたべることができるであろう。
「あ、おはよー。凜音ちゃん、私たち同じクラスだよ」
「そうね」
いつも冷たいが時に頼れる存在なのだ。ツンっとしているだけで、本当は優しいやつなのだ。幼少期からの仲である。ちょっと変わった所もあるんだが。
それはさておき、私の高校は2年生からクラス替えがない。担任もこのまま上がる。そういう制度らしい。だから凜音と同じクラスになれて本当に心の底から嬉しかった。

校長先生の長いスピーチや、担任紹介、担任からの今後の授業予定を聞くと今日はもう帰っていいとの事だった。今日は部活があるので私はダンス部へと向かう。ダンスは小学生の頃からやっている。だが私はなんの才能もない。その辺の人と変わらず普通に踊れる程度だ。
「美咲ちゃん今日も良いね。リズム良く取れてるよ!」
「いやぁー全然ですよ。私なんて」
部活の先輩が話しかけてきた。褒められたがそんなことは無い。私はそんなに踊れていない。今のところだって何個かミスが目立つ。
「美咲ちゃんミスは大丈夫だよ!次の大会までまだじかんあるんだから!」
「そうですけど」
でも緊張してしまう。今回の曲では先輩の上手い人がもちろんセンターなのだが、私も前列になぜか放り込まれている。私はそんなに大して躍れないんだけどなと思っている。大会は夏に行われる。それまでに何とかしないといけない。自主練習でもするか。と考えていると視界の端になぜかちょこんと座りながらこちらを見ている凜音を発見した。
「先輩、ちょっといいですか?友達が呼んでるみたいで」
「いいよー!いっといでー!」
私は凜音の方へと駆け寄る。こういう時もう私は凜音が何をして欲しいのかわかっていた。
「また読んで欲しいの?」
「よくわかってるね。そうね。読んで欲しいの」
凜音が手に握られたコピー用紙を差し出す。それを受け取るとドンと音がなったかのように重かった。凜音は読書が趣味で自分で書くこともしている。部活を終わったら読むしかないのか。今回は何ページあるのだろう。これは自主練習している暇が無さそうだ。
「じゃあ、また明日」
凜音がそう言うとスっと振り返って去っていった。

練習が終わり家へ帰ると、カバンに入れたコピー用紙を取り出す。はあとため息をつきながらコピー用紙の中身を読んでいく。中身は自殺など殺すなど書いてあった。どうやら推理小説らしい。私はこんな発想力は無い。作文で確かに賞をもらったことはあるがそれもただの偶然だろう。ちょっとこんなに難しいことを書ける凜音のことを羨ましく思った。
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