サファイア革命
サルシャが頑張って落ち着きを取り戻している間もシエルは彼女の服装とは反対に澄みまくった瞳のまま、サルシャの方から顔をそらさなかった。
「俺の名前はサルシャ。サルシャ・リボルト。よろしくなんていいたかないが、社交辞令として言っておこう。よろしく」
皮肉たっぷりの返しにもシエルは気にしない。
それどころか、サルシャが言葉を返してくれたのがうれしいのか満面の笑みをサルシャに向ける。
「うん!うん!分かった!サルシャは正直なんだね!それともツンドレとかいうやつ?」
「それを言うならツンデレだろ!!!なんだよツンドレって!」思わずツッコミを入れてしまった自分に呆れる。
そんなことお構いなしに、シエルはサルシャの楽園を見て回りながら興奮している。
「この花、、、可愛い!!!!なんて名前なのかな、、」シエルのその言葉と共にごそごそと横から音がする。
今度はなにやってんだとシエルを見ると、、、
「いやちょ、まてまてまて!お前なに勝手に人のバッグ漁ってんだよ??!!!」
サルシャが止める間もなく芝生の上には彼のショルダーバッグの中身が転がっている。
「あっ!あったー!」シエルの土まみれの手には一冊の本。図鑑だ。
ぺらぺらと紙をめくり、お目当てのページを見つけたようでとても喜んでいる。
「へー、サルビアっていうんだ!いい名前だねえ。名付け親は誰なのかな?」小首をかしげて植物に語りかける様子のシエルを見てふと疑問がわく。
「こいつ、、どうして、、、、?」
ああ、クソ!俺が謎は謎のままにしときたくない性格じゃなきゃよかったのに!!聞きたくてたまらないじゃないか!
できれば怪しいやつとは関わらない方がいいのに!
そう、頭脳明晰で母親譲りの美しさを兼ね備えたサルシャにも欠点はいくつか存在する。
その一つが好奇心には抗えない、というものなのである。
やっぱり今回も例によって。
「おまえ、なんで俺のバッグに図鑑があるって分かったんだ?」興味が移ったのか、サルシャの足元の蟻の行列をながめているシエルに尋ねる。
「それはねー、さっきサルシャ君がバッグの中からいくつか本を出してたでしょ?それでサルシャ君の場所を見つけて、君の姿が見えた時、ちょうど君が全部ページを少し読んで青い本に決めてたの。その時にひまわりって文字が見えて、育て方、、?とかも書いてあったから図鑑だ!って。ひまわりっていう花だけは知ってるんだー、私。ファルダおじさんがひまわりは嫌いってよく言ってたから。」
こちらをチラリとも見ることなく蟻を眺め続けているシエル。サルシャはそんな彼女から目が離せなかった。
「この楽園は半径4m。そして大体の人間が会話をするときに聞こえる距離は3mほど。しかも今は夏だからここにだってセミはいるし、なんなら今だって鳴き続けている。そんな雑音も混じった中で正確に場所を手繰り寄せることが並みの人間にできることなのか、、?」そんなサルシャの問なんて関係なしに蝉はないている。サルシャは自分の鳥肌が立つのがひどく遠いものに感じられた。


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