Only
『君、最近よくここにいるよね。いつも一人で。』
話しかけてきた男は、いつもと違った。
まず、外見。スーツを着てはいなかったけれど、清潔に整った服装は、この人が社会に漏れずに存在していることの印に見えた。
そして、彼は女性を連れていた。
『ナンパじゃないんだってことを証明したかった。』
彼はあとで、私にそう言っていた。
その女性は、彼の恋人なのだと一目でわかるような雰囲気を漂わせていた。
私を心配そうに見つめる男の傍らで、その女性は少し不安そうな顔で、私を見てきた。
その心配が、男のそれと意味が違うことを私は感じ取ることができた。
女性の手は、男性の腕にしっかりと絡まっていた。
『ほっといてよ。』
目に飛び込んできた映像が不快で、私は二人を睨みつけた。
しかし、それにもあまり動揺しない様子で女性が口を開いたので、少しびっくりした。
『あのね、この人…晃太っていうんだけど、いつも一人でいるあなたが心配なんだって。余計なお世話かもしれないのは十分承知なんだけど。でも、もしあなたが行くところがないなら、うちに来ない?』
『…なに、いってんの。』
あまりに唐突な話で、私は少し笑ってしまったかもしれない。