Only
一人が当たり前だった。
父親の暴力に耐えきれず母親が出て行ったって、父親が変わるわけもない。

かばい続けてくれた母親がいなくなってからは、死の恐怖さえ感じた。

だから、社会のはみ出し者としてしか、生きることができなかった。

『私のこと、何も知らないくせに。そんな得体のしれない奴拾って、あんたたちの利益なんかないじゃん。』

『利益なんて、気にしない。これは俺の自己満足だ。このままじゃ、君は消えてしまう気がする。そうなったらきっと、俺はつらいんだ。』

次に口を開いたのは、男のほうだ。

『この人、いうのよ。あなたの目は、生気がないんだって。このままじゃ、きっとこの世に存在しなくなってしまう。だから、あなたを救いたいんだって。』

『俺は彼女と暮らしているんだ。だから君をどうこうすることは絶対にない。彼女も、君を受け入れてくれると約束してくれた。もちろん、君を縛る気はない。泊るところがない時、うちに来るだけでもいい。君の利益には、なると思うけど。』

世の中には、物好きもいるもんなんだと思った。
でも、確かに寝床がない状態が最近続いていた。
死んでもいいかとも思っていたけれど、そこまでの勇気もなかった私には、いい話かもしれないと思った。



『わかった。いってもいいよ。』
私はそういって、立ち上がった。
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