Only
『俺も、そうだったよ。俺にも、何もなかった。』

晃太はそれから、自分のことを話し出した。

『俺の母親は、子育てを放棄したんだ。小さいころから、服も、食べ物も、満足に与えられなくて、いつも服はボロボロ。学校に行けば、それが原因でいじめられた。でも、学校に行けば、昼飯は食えるから。だから、我慢してた。家に帰っても、空っぽ。何も、ない。』

晃太の話は意外だった。てっきり、恵まれた環境で生きてるやつが、気まぐれに哀れな子を自己満足で救おうとしてる。そんな風にしか、思ってなかった。

『暴力こそ振るわれなかったけどな、『無視』という虐待。俺の存在なんか本当にあるのかと、自分の存在が、自分でも信じられなくなった時もあったよ。』

-だから、わかるんだ。
消えてしまいたくなる気持ちも、消えそうな人間も。-

彼の瞳は、時折、本当にさみしそうに揺れていた。私はどんどん、彼の言葉にのめりこんだ。

『君には、そうなってほしくないから。俺がそうしてきたから、人間は神様に愛されなくても、……親に、愛されなくても、生きていける。自分を見ない奴なんて鼻で笑って、生きていけるんだって、わかってほしい。……生きて、ほしい。』

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