Only

「もしも、武山岬という男を知っていたら、そいつには近寄るな。」

そう言われて、数秒間、私は固まってしまった。

『武山岬』。言うまでもなく、一番の容疑者だ。
でも、どうして、陽輔が彼のことを知っているのか。
知っているはずがないのだ。
私は捜査について、陽輔に話したことなど一度もない。


「なに、言ってるのよ、陽輔。……私は」
「捜査については俺に話せないだろう。でも、これだけは守ってくれ。あの男には、何があっても接触するな。」

陽輔はきっぱりとそういう。
私はぐっと膝の上でこぶしを握り締める。


「どうして……。」

どうして。そのあとはうまく言葉が続かなかった。



< 182 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop