Only
「おい、どうしたんだよ?」
話しかけられて、はっとする。
どうやら意識が遠退いていたらしい。
『武山岬に近づくな。』
そういった陽輔の言葉と低い声、表情が頭から離れない。
どうして陽輔はあんなことを言ったのだろう。
そもそもどうして武山岬を知っているのだろう。
そんなことをぐるぐると考えていて、考えないようにすることも難しく、悩み続けていた。
「柴崎。ごめんごめん。ぼーっとしてた。」
「前もそんな状態だったけど、最近は元気になったように見えたんだけどな。どうしたよ?」
柴崎は本当に私をよく見てる。私は、柴崎になにもできていない。
柴崎は私の仕事のパートナーだ。迷惑をかけないためにも、相手のことは理解しておく必要がある。
私はまだまだ、刑事失格だ。
「ごめん。大丈夫だよ。行こう。」
陽輔の言葉に、『武山岬をこれ以上追うのはやめた方がいいのか』と一瞬でも考えた自分を恥じた。
理由はよくわからないけど、陽輔がいったからと言うだけで、捜査を止めるわけにはいかない。
私は武山を疑っているのだから。晃太の命を奪った人間を、どうしても捕まえたい。
でも、頭に浮かぶ、陽輔の厳しい表情は、いつまでも頭から離れなかった。