婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私を最終的に結婚相手に選んだのだから、一時の気の迷いを許してあげれば良いと言う人は、ご自分がラザール様と結婚したら良いと思う。

 だって、私はオレリーと婚約者を交換して欲しいと彼が言い出したあの一件さえなければ、ラザール様と結婚してクロッシュ公爵夫人と呼ばれていただろうと自分でも思うから。

 貴族としてこなすべき役割であり、避けて通れぬ義務だと思っていたから。

「……お疲れ様でした。夜会会場で見るミシェルお嬢様は、お美しくて……まぶしくて、僕の目がくらんでしまうところでした」

 なんとも大袈裟な言葉を聞いて、やっと現れたと思い私は振り返った。

「ジュスト。待っていたわ……こんばんは」

 さりげない動きで私の手を取ったジュストは、正式な夜会服に身を包み、どこからどう見ても、生粋の貴族に見えていた。

 それに、ジュストはいつもはふわふわしている茶色の癖毛をそのままにしていて、それがまた可愛いんだけど、今夜は後ろへ撫でつけてしまっていて……雰囲気が変わって、とても恰好良い。

 ずっとそばに居た私も見違えてしまうくらいに、素敵な紳士となっていた。

「ミシェルお嬢様。お疲れのご様子ですね。もし良ければ果実水でも、持って来ましょうか?」

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