婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「ええ。そうです。手紙に書いた通り、叶わぬ恋に落ち、このままでは駆け落ちせざるを得ないところまで、僕たちは追い詰められてしまいました」

 ……え?

「まぁ! そんな……駄目よ。アシュラム伯爵。貴方がいくら有能でも、身一つで逃げれば出来ることは限りがあるわ」

「……ですが、このままではミシェルと僕との仲は、無理やりに引き裂かれてしまいます。愛し合っているというのに、それなのに」

 ……隣ではらはらと涙を流し、哀れな涙声で王妃様に訴えている男性は、何処の誰なの?

 私。きっと、名前も知らない人だと思うわ。こんなジュスト、見たことないもの。中身がどこかで入れ替わってしまったのかしら。

 突然始まった芝居に、私は呆然と見守ることしか出来なかった。

「まぁ……まぁ! まぁ……駆け落ちなんて、駄目よ! この私が、絶対にさせないわ! こんなに可愛いご令嬢に、何かあったら……!」

 どうして、王妃様はそんなにもヒートアップして涙を流してしまっているの……?

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