婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私の脳裏には、その時従者ザカリーの顔が掠めた。けど、ザカリーから聞いたとしてもジュストは絶対にそれは認めないだろうし、それこそ二人はお互いに墓場まで持って行くような話だろう。問い詰めるだけ無駄だわ。

「では、居るのね?」

 やはり、ラザール様には隠し子が居るのだ。衝撃ではあるけれど、婚約解消に足る理由にはなってしまった。

「お嬢様は大変驚かれたことと思います……ですが、貴族には、良くある話ですよ。若い家庭教師を孕ませて、我に返って捨てたんです。ああ……ですが、彼は今でも母子のすべての生活の面倒を見ているという話なので、他の貴族よりは幾分扱いはマシなようですよ」

 本当に、ラザール様の隠し子、居るんだ……先程の出来事を思えば、それは絶対に居るだろうけど、やっぱり信じられなかった。

 だって、そんな素振り……私の前では、一切見せなかったし。

「どうして……これまで、教えてくれなかったの?」

 私はラザール様について、オレリーの一件で抱いていたはずの淡い恋心は消えてしまい、今では幼い頃から知っているという情も何もかも消え失せてしまった。

< 119 / 200 >

この作品をシェア

pagetop