婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「ははは。ミシェルお嬢様、平民の服も良く似合いますね。いえいえ。違いますね。何でも、お似合いになりますが」

「そっ……そう? ありがとう。けれど、足が見えてしまうのが、やはり気になるわね。この恰好をしている皆は、気にならないのかしら」

 外見は美男と言って差し支えないジュストに、着ている服を褒められれば悪い気はせず、私は素直にお礼を言った。

「ええ。高貴なお嬢様のお忍び旅のようで、可愛らしく目の保養になりますね。なりますが、すぐに着替えていただきます。わかりますね……?」

「……わかっているわ」

 私は貴族令嬢で足を夫以外の誰かに見せることなど、本来であればもってのほかなのだ。ジュストの言い聞かせるような言葉と鋭い眼差しに、私は素直に頷くほかなかった。

「どうして、家出をしたんですか?」

 私たちはさきほど辿った道を引き返して歩きつつ、ジュストは何気なく聞いた。だから、私だっていつもの調子で、彼の質問に答えた。

「……ラザール様がオレリーのことを、私から代わって婚約者にしたいと思っているみたいなの」

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