婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
「とは言え、僕自身とてあまり褒められたことをしたとは思っておりません。それをするしかないというところにまで追い詰められていたからで、王妃様の亡き妹君を思いやる優しいお気持ちを利用したと問われれば、それは認めます。その通りです。この件に関しては、ミシェルお嬢様を共犯に巻き込む気もありません。これは、僕が被る罪です」

「……自分が悪いことをしたという、自覚はあるのね?」

 私だって、王妃様の身になれば、どうだろう。

 亡き妹と駆け落ちした恋人の姿が重なる、私とジュストのような恋人たちを救いたいとは思うだろうけど、敢えてそういう過去を利用されたと知れば、嫌な気持ちを抱いてしまうかもしれない。

「ええ……僕は権力を持ってはいませんが、絶大な権力に窮地を救って欲しいと願うことは、別に悪いことではないと思いませんか。神様にお祈りするようなものですよ。神の中にも慈悲深い女神がいても不思議ではありません。ミシェルお嬢様」

 馬車の中に設置された灯りは小さなもので、ジュストの表情は見えにくい。だと言うのに、私の顎を持った彼の強い眼差しは、視界の悪い中でもそうだとわかった。

< 122 / 200 >

この作品をシェア

pagetop