婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 だって、私がアンレーヌ村に家出したのは、ほんの二週間前なのよ。

 こんなにも立派な邸がそんな二週間程度で建つ訳もなく、彼は一年以上……ううん。そのもっと前から、この邸を準備していたことになって……凄い。

 ジュストは全部計算通りです、みたいな顔をしている訳だわ。

「お褒め頂き、ありがとうございます。光栄です。ミシェルお嬢様」

 彼は手の甲で口元を拭うと、外で待っていた御者へと手で合図し、馬車の扉を開かせた。

「ここで、降りるの?」

 見学でもするのだろうかと私が問えば、先に降りていたジュストは、胸に手を当てて私へ手を差し出した。

「大事なお嬢様と愛を交わすというのに、その辺の宿という訳にもいかないだろうと、前々から準備していた甲斐がありましたよ……あ。お嬢様の部屋の浴室は、きっと感動して頂けると思いますよ。ミシェルお嬢様のお好きな童話、人魚姫を模して特別に造って頂きましたので」

 確かに私は『人魚姫』が大好きだ。ずっと共に過ごしていた彼だって、それは知っている。

「……え? 待って。どういうこと?」

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