婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

18 計算違い

 ジュストが二人で暮らすために用意していたという邸の中は、驚くほどに豪華だった。

 私の部屋だという部屋に案内され、特別に雇われたというメイド、それに、私好みに造らせたという例の浴室。

 底から泡が産まれる特殊仕様の湯舟に浸かりながらメイドに丁寧に長い髪を洗われて、私の心の中に浮かんで来るのは『何故』という言葉だった。

 だって、ジュストはこんなにも大金持ちだというのに、サラクラン伯爵邸で護衛騎士として働いていたのよ……本当に信じられない。

 我がサラクラン伯爵邸は世間では待遇が良いとされているようで、だからこそというかそこで働く使用人たちも質が良く、そんな人たちに囲まれて働くという環境も良かった。

 ……というのを、ジュスト本人から聞いたことがある。

 けれど、こんなにもお金持ちなのに、どうして私の護衛騎士なんてしていたの……?

 ジュストが何を考えているかなんて、これまでに読めたことなんて一回もなかったけど、私が好きだからそうしていたという線を、遥か彼方に越えてしまっていそうな気がするもの。

「……ジュストって、本当に信じられない」

 この湯舟だって、細かな泡が底から立ち上り……そんな特殊な加工は見たことも聞いたこともないから、間違いなく特別注文して造らせているはず。

 何もかも私のために……? これって、現実なの。本当に信じられない。

 ……人魚姫を模したという浴室は本当に夢の中のようで、今すぐに夢から醒めてベッドの上に居たとしても全然不思議ではなかった。


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