婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私はジュストと共に居られる未来が見えて嬉しかったし、その上でここに居るというのに、何を言っているのだろうと不思議だった。

「ええ。ですが、いつか後悔しませんか? 僕は貴女を手に入れたい一心でここまで来ましたけど、ミシェルが僕を好きだというのは、僕の妄想ではないかと心配になるんですよ」

 茶色の目は細かく揺れて唇は震えていて、ここに来るまでにジュストは、どれだけの不安を乗り越えて来たのだろう。

 私は彼に好意を持っていたとしても、表には出す訳にはいかない。だって、ラザール様という幼い頃から決められた婚約者が居たし、ジュストに気持ちがある事なんて知られる訳にはいかなかった。

 私はこれからは彼と一緒に居ると、そう信じて貰えるように、努力すべきだと思った。

 ジュストの首に手を掛けて、私は初めて自分から彼にキスをした。震えていた唇は舐めた舌を導くようにゆっくり開いて、やがてお酒の苦い味のする舌と絡まり合った。

 私はジュストは余裕があって常に何もかも把握していて、いつも『全部僕の計算通り』みたいな顔をしているいけすかない性格の男性だと思っていた。

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