婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

19 嘘

「ミシェル……緊張してますか?」

 遅く起きた昼頃、私たちはサラクラン伯爵家へと向かう馬車に乗っていた。

 緊張とは、少し違うかもしれない。いつにない状況に、興奮はしているかもしれないけど。

「……お父様は、怒るでしょうね。けれど、きっとわかって下さると思うわ」

 最初、私がジュストと結婚したいと言い出した時、頭ごなしにあり得ないと怒り聞く耳を持たなかったのはお父様だ。

 ラザール様との婚約が解消されてしまえば、お父様との交渉だけが懸念点。そして、ジュストは私の『純潔を奪ってしまったから責任を取る』と、結婚する話を切り出すはずだ。

 貴族令嬢の嫁入りは、純潔であることが必須条件だ。なぜかというと、その家の血を繋ぐことになるというのに、夫でない男性との子を産むかもしれない。

「そう願います。僕だってサラクラン伯爵に、嫌われたい訳ではないですし……とても感謝しているんです。サラクラン伯爵は親元から離れることになった僕を甘やかさずに厳しかったですけど、寂しくないようにと、年齢の近いミシェルの護衛騎士になるように配慮して命じてくださいました」

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