婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 誰が見たとしてもあの子の命の期限は、すぐそこまで迫ってきていた。

「それは……嫌だったでしょう」

 ジュストはそう言って、私の背中を撫でた。

 ……ええ。そうだった。嫌だった。本当は私のものを返して欲しいって、泣き喚きたかった。けれど、出来なかった。あの子はもうすぐ、死んでしまうかもしれない。姉の私は健康な身体で、長生きが出来る。だから、常に我慢するべきだった。

 オレリーはとても可哀想だから。

「ええ。嫌だったわ。けれど、それを口にすることは、いけないと思っていたの。ジュストが私の護衛騎士になった頃には、自分の所有物には執着しないことにしていたの。貴方が私に紹介された時を覚えている? ……僕は貴女の護衛騎士として仕えますって、そう言ったの」

「ええ。覚えています。愛するミシェルと、初めて会った時なので」

 遠い過去を思い返すようにして、彼は頷いた。

「嬉しかった。けれど、私が喜べば、オレリーにまた取られるのではないかと思ったの。だから、わざと素っ気なくしたわ。私……ジュストを、あの時から取られたくなかったから」

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