婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 私を見たジュストはハンカチを取り出して、頬に流れる涙を拭った。

「どういたしまして。僕にあまり自覚はありませんが、ミシェルを守ることには疑いはありません……面倒なことを言い出す者は肉親であろうと、復讐したければ僕に任せてください」

 真剣な眼差しを向けそう言ったジュストに、私はつい声をあげて笑ってしまい、涙は勝手に引っ込んだ。

 そうね……こういう人なの。だから、私は好きになったんだわ。

「……あの……これはまったく笑うところでは、ないんですけど……ミシェル?」

 ひとしきり笑った私に、ジュストは不満げにそう呟いた。私はそんな彼の腕を取り、彼と幼い頃から暮らしたサラクラン伯爵邸の廊下を歩いた。

「そうね。あの子に……オレリーに復讐なんて、するつもりはないわ。私はさっき、もう二度と甘やかさないとあの子に言ったの……それで、十分だと思うわ。ジュスト」

 それを聞いたジュストは、目を細めてにっこりと笑った。

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