婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
 ……ん? 優秀な僕の推理によるとさっきの言葉は『もしかしたら、私が気に入らないかもしれないけど、よろしくね』みたいな感じだろうか。だって、本当に気にしない人は、あれは言わないんだよなあ……。

「ミシェルお嬢様。僕は近くに居ますので、何か用事があれば名前をお呼びください」

 とりあえず、彼女の本当に言いたいことが良くわからないが、仕えてそうそうに機嫌を悪くさせたい訳でもない。近くの使用人部屋に引っ込んでおくか……。

「……待ちなさい」

 本を熱心に読んでいたミシェルが去ろうとした僕に、慌てて声を掛けた。

「はい。なんでしょうか。ミシェルお嬢様」

 まだ何かと立ち止まり、問い掛けた僕に彼女は悲しそうな顔をした。

「……そこに居て良いわ。私、ジュストが居ても、気にしないから」

「かしこまりました。ミシェルお嬢様。それでは、こちらの椅子で事務作業などさせて頂いても?」

「良いわ。許します」

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